ヤクルト1000が、日経トレンディ「2022年ヒット商品ベスト30 」で第一位に輝くなど、今年も腸内細菌やヒトの常在菌による健康食品は根強い人気を誇っています。バイオ医薬の開発でも、2015年、米Vedanta Biosciencess社が、腸内細菌叢から分離した菌のカクテル製剤VE202を炎症性腸疾患の治療薬として米Janssen Biotech社に総額2億4100万ドル+売り上げロイヤルティで技術導出、腸内細菌創薬にゴールド・ラッシュを引き起こしたことを思い出します。しかし、あれから7年、どうやら腸内細菌カクテル創薬は少なくとも自己免疫疾患治療薬としての勢いを失いつつあります。多薬剤耐性Clostridioides difficile (CDI)を生態学的に除去する腸内細菌カクテルにはまだ実用化の望みが残っているものの、この低迷を打破する出口は、免疫チェックポイント阻害剤との併用にわずかにのみ残されているのでしょうか。
新Mmの憂鬱、糖尿病の根本治療薬となる膵臓β細胞増殖因子の発見に肉薄したのか?
皆さん、お元気ですか?
患者数5億3700万人(国際糖尿病連合:IDF糖尿病アトラス第10版)。しかも、今後、患者数の増加が避けられない糖尿病の克服は隠れたパンデミックともいうべき地球的課題です。発症の根本原因はインスリンを分泌する膵臓のβ細胞数の減少もしくは疲弊です。β細胞増殖因子の探索こそ、バイオテクノロジーの研究者の大きな夢でした。その夢の実現に、肉迫したグループが現れました。そしてなんと、そのβ細胞成長因子は脂肪から分泌されていたのです。まったく予想外の糖尿病の治療標的が発見されたのかも知れません。
新Mmの憂鬱、チャイナ・リスクの増大、米国食品医薬品局が相次いでバイオ医薬の審査遅延・拒絶
皆さん、お元気ですか?
まずはお知らせです。8月の宮田満のバイオ・アメージング(無料LIVE)はAIとバイオを取り上げます。8月29日に第二弾を生放送。気鋭のベンチャー、HACARUS(株)の藤原健真CEOをお招きして、「スモールデータからはじめる医療領域におけるAIの活用」をテーマに討議いたします。皆さんのご参加・ご質問を期待しております。
https://www.jba.or.jp/jba/seminar/se_02/_ai_2.php
ビッグ・ファーマとバイオ・ベンチャーの第二四半期の決算説明のラッシュです。実はこの機会に、パイプラインの整理を発表する企業が多いので、毎年、いつも注目しております。今回、ビッグ・ファーマが提携した中国のベンチャー企業の治験薬の審査を延長したり、治験データを米国食品医薬品局(FDA)が相次いで拒絶したりしました。それに伴う、パイプラインの整理が眼につきました。昨今の中国のゼロ・コロナ政策と米中緊張が背景にあります。我が国ではまだ中国市場や中国のベンチャーからの技術導入に関心を持つ製薬企業やベンチャーが多いのですが、ロシアのウクライナ侵攻以降、つまり今年の2月24日以降、世界が急速に分断されつつある事実を深く認識すべきであると思います。もはや“エルドラド”は中国には存在していないと考えております。
新Mmの憂鬱、創薬ゲーム・チェンジャーModerna社がScience Dayで力説したもの
皆さん、お元気ですか?
一昔前、最新のバイオの情勢を追うために、米Genentech社、米Biogen社、米Amgen社をフォローしていました。それが米Ionis社、米Alnylam社も付け加わり、更に米Editus Medicine社、米Intellia社などにも目配りする必要が出て来ました。生体医薬→抗体医薬→核酸医薬→遺伝子治療・ゲノム編集といったモダリティの革命が連続して起こったためです。では今、フォローすべき企業は何か?それは言うまでもなく、米Moderna社とドイツBioNTech社でしょう。まさに彼等はmRNA医薬の開発によって、ワクチンだけでなく、バイオ医薬全体のゲーム・チェンジャーとなりつつあるためです。2022年5月17日、Moderna社がScience Dayを開催、最新の研究動向を発表しました。キャッシュで190憶ドルを持っている同社は膨大な投資余力をどこに振り向けるのか?自社株買いなど愚かなこともしておりますが、明日のバイオを占う指標となるでしょう。日本でのmRNAワクチンの製造権を武田薬品から取り戻した同社は我が国でもmRNA医薬の製造体制整備に走っています。もはや、我が国の製薬企業もModerna旋風に巻き込まれつつあるのです。
新Mmの憂鬱、武田、第四の新型コロナワクチン製造販売認可獲得、でも何故自前で開発しなかったのか?
皆さん、お元気ですか?
まずは新人YouTuberからのお知らせです。このLIVEは注目です。まだ、無料視聴のお申込みを受け付けています。下記からどうぞ宜しく願います。
●4月26日15時~BA「深淵なる海底下生命圏を解明せよ!」(海洋研究開発機構マントル掘削プロモーション室 稲垣室長)
●5月12日15時~BA「コロナ禍を超えて躍進するmRNA医薬」(東京医科歯科大学位高教授)
さて、昨日(2022年4月19日)、我が国政府は第四の新型コロナワクチン「ヌバキソビッド」の製造・販売認可(初回投与とブースター投与)を武田薬品に与えました。組換えスパイク蛋白質ワクチンです。副反応も穏やかなのが売りです。米Novavax社から製品導入し、武田薬品の光工場で製造します。しかし、ワクチンの製造・開発を強化してきた武田薬品なら、自前で開発できるようなワクチンを、何故、製品導入したのでしょうか?その謎を推理します。
新Mmの憂鬱、売り上げ2兆円、研究開発費4600億円、突然ビッグ・ファーマになったModerna社は何処に行く?
皆さん、お元気ですか?
ドイツBioNTech社と並び立つmRNAワクチンの雄、米Moderna社が2021年の決算を発表しました。それによると、売り上げは185億ドル(2兆1275億円。1$=115円)、総収益は122億ドル(1兆4030億円)に上ることが明らかになりました。収益率はなんと75%を超えています。まあ、新型コロナワクチン「Spikevax」単品販売ですから、かつての牛丼の吉野家のような高収益はやむを得ません。しかも、同社は今年秋冬にSpikevaxの売り上げは最高に達し、その後も季節性の新型コロナ流行に転じても、ある程度の売り上げ減少を見込むものの、2兆円弱の売り上げを見込んでいるような勢いです。つまり、Moderna社はパンデミックのあだ花ではなく、今やビッグ・ファーマの一角に食い込む製薬企業に変貌したのです。キャッシュの創出力は空前絶後の状況です。同社は資金使途に困り?、自社株買いを2021年8月に10億ドル、そして最近新たに30億ドル行うことを発表しています。2022年には40億ドルの研究開発費を投入する計画です。このキャッシュの力をもってModerna社はどんな技術突破を図るのか?図体と資本力はビッグ・ファーマ並みですが、官僚的ではなく、野心満々の巨大ベンチャー企業、Moderna社の行方を見通して見ます。
新Mmの憂鬱、令和3年度バイオ関連補正予算の目玉はこれだ!
皆さん、お元気ですか?
2021年12月13日から本格的な国会審議が始まった令和3年度補正予算。経済産業省分だけでも新型コロナのバイオ関連予算2800億円弱の予算が組まれています。しかも、こその中身は、デュアル・ユースやVC投資と合わせ技の創薬治験支援補助金など、画期的なものばかり。今回は一昨日、経済産業省生物化学産業課の佐伯耕三課長にインタビューしたホカホカの内容を皆さんにお届けいたします。
◎関連リンク
https://www.mof.go.jp/policy/budget/budger_workflow/budget/fy2021/20211125201916.html
新Mmの憂鬱、新型コロナの謎、回復者血漿が効かぬのに、抗体カクテルが何故効くのか?
皆さん、お元気ですか?
うどの大木ということわざは、筋肉の生理学から解き明かすことができます。身長が倍になると体重は3乗で8倍になりますが、筋肉の力は筋断面積に依存するため、つまり2乗しか増加できないのです。どうしても体重に比べ筋力不足で動きが緩慢になるのです。しかし、勿論、例外もあります。現在、大リーグで活躍中の大谷選手がまさにそれです。石井直方東大名誉教授も「本当に不思議だ」と最近NHKで言っていました。石井名誉教授は同級生で、全日本ボディービルチャンピョンでもあったため、この発言は真実だと思います。
もし緊急事態宣言に効果があるなら、本日当たりで第5波の感染患者数のピークアウトが期待できるはずですが、どうもそうならない嫌な予感がいたします。感染力が増強したデルタ株とラムダ株の襲来で、今年の残暑は息苦しさを増しております。実は新型コロナの免疫療法で大きな謎が生まれました。新型コロナから回復した患者から供与された血漿分画製剤(回復者血漿)がまったく効かないという治験データの最終報告がNEW ENGLAND JOUNAL OF MEDICINE(NEJM)誌に掲載されたのです。一方、スイスRoche社・中外製薬の新型コロナウイルスのスパイク(S)蛋白に対する2種の抗体カクテル製剤「ロナプリーブ」は我が国の治験でも発症7日以前に投与すれば重症化を抑止することが確かめられています。世界保健機構などの職員が新興再興感染症抑止に派遣される時、たまたま感染する事故が生じた時、頼りにするのが回復者血漿です。回復者血漿には感染症専門家が信仰心に近い信頼を置いていたのです。しかし、その信頼を新型コロナウイルスはあっさりと裏切ってしまったのです。まったくの謎。しかし、この謎を解明することによって、この厄介な感染症の実態が理解できる可能性もあると考えています。がっかりしている暇はありません。
新Mmの憂鬱、10万人の日本人ゲノム解析が産学連携で始まった
皆さん、お元気ですか?
東京オリンピックは福島で本日から始まりました。日本の女子ソフトボール・チームはコールドゲームで勝ちました。誠に幸先が良いですが、新型コロナの感染爆発の危機を孕んだオリンピックが無事に開催できるかは、まだ予断を許しません。しかし、事務局と政府の迷走著しく、開会式ではたった3日間で作曲された新曲か、今までの楽曲の転用でお茶を濁す有様です。真夏の東京で、オリンピックの迷走を楽しむ心境にまで皆さんもなかなか悟りを開けないのではないでしょうか?
かつてこのコラムで日本の宝と賞賛した東北メディカル・メガバンクの価値に我が国の製薬企業群もやっと気が付いたようです。産学連携で、15万人のゲノム・コホートの参加者の中から10万人の全ゲノムを解析するプロジェクトが2021年3月にスタートしたことを、2021年7月7日七夕に発表があったのです。このプロジェクトを実現するエンジンとなったのは、グローバル・ファーマに成長した武田薬品でした。いろいろ問題を抱えつつも、新薬開発における各国・地域ごとの集団ゲノム解析の重要さを認識したことは、世界の常識に追いついた企業であることの証明ともなりました。深く感謝したいと思います。この常識が我が国の製薬業界でも早急に当たり前になることを祈っています。